
1年単位の変形労働時間制|導入の手順と280日・連続6日の上限
「夏のあいだは毎日のように残業しているのに、秋になるとみんな定時で帰っている」。 勤務表を眺めながら、そんな凸凹に気づいたことはありませんか。年間で見ればそこまで働きすぎているわけではないのに、忙しい月だけ時間外がふくらんで、割増賃金も36協定の枠も気になってくる。かといって、閑散期にわざわざ人を減らすわけにもいきません。
こういう「季節の波」がある職場のために用意されているのが、1年単位の変形労働時間制です。1年を通してならせば週40時間に収まるなら、忙しい時期に1日9時間・10時間の所定を組んでよい、という制度です。
ただ、この制度は1か月単位のものと比べるとルールが少し多く、「うちも入れたい」と思ってから止まってしまいがちです。この記事では、決めることと守るべき上限を、順番にひとつずつ一緒に整理していきます。むずかしい理屈は後回しで大丈夫です。
結論:1年単位の変形労働時間制は、①労使協定を結ぶ(就業規則だけでは導入できません)→ ②就業規則にも定めて周知する → ③労使協定を所轄の労働基準監督署へ届け出る(様式第4号)、の3ステップで導入します。守るべき上限は、1日10時間・1週52時間、対象期間が3か月を超えるなら年280日まで、そして連続勤務は6日まで(特に忙しいと決めた「特定期間」だけ最長12日まで)です。所定労働時間の総枠は、40時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7 で出します(1年=365日なら約2,085時間)。届出は毎年必要になるので、有効期間の終わりをカレンダーに入れておくと安心です。
進めるときは、次の順番だと迷いにくくなります。
- 年間の忙しさの波を書き出し、繁忙期と閑散期を見える形にする
- 対象期間(起算日)と対象になる人の範囲を決める
- 総枠(40時間 × 暦日数 ÷ 7)を出し、その中で年間カレンダーを組む
- 労使協定を結び、就業規則にも定める
- 様式第4号で労働基準監督署へ届け出る
何が起きているか:ならせるのは「1年」、でも代わりに上限が増える
1年単位の変形労働時間制は、労働基準法第32条の4に定められた制度です。1か月単位のものと考え方は同じで、平均して週40時間に収まっていれば、特定の日・週に法定労働時間を超える所定を組んでよいというものです。違うのは、ならす期間が最長1年まで伸びること。そのぶん、季節の波を丸ごと設計に取り込めます。
ただし、期間が長くなるほど「忙しい時期にずっと長時間」が続きやすくなります。そこで法律は、1か月単位にはない具体的な上限をいくつも置いています。ここが、この制度がやや面倒に見える理由です。
| 1か月単位 | 1年単位 | |
|---|---|---|
| 対象期間 | 1か月以内 | 1か月を超え1年以内 |
| 定め方 | 労使協定または就業規則 | 労使協定が必須(あわせて就業規則にも定める) |
| 労基署への届出 | 労使協定で定めたときに必要 | 常に必要(様式第4号) |
| 1日・1週の上限 | 定めなし(総枠に収まればよい) | 1日10時間・1週52時間 |
| 労働日数の上限 | 定めなし | 年280日(対象期間が3か月を超える場合) |
| 連続勤務の上限 | 定めなし(週1日の休日は必要) | 6日(特定期間は最長12日) |
| 途中入社・退職の精算 | 定めなし | あり(あとで清算して支払う) |
総枠とは:その期間に組める所定労働時間の合計の上限のことです。40時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7 で出します。1年(365日)なら約2,085時間、うるう年(366日)なら約2,091時間です。年間カレンダーの所定労働時間を全部足した数字が、この総枠に収まっているかを確認します。
数字が並ぶと身構えてしまいますが、実務でやることは「年間カレンダーを1枚作って、合計時間が総枠に収まるか確かめる」だけです。上限は、そのカレンダーを作るときのガードレールだと考えてください。
決めること:労使協定に書く5つの項目

この制度は、労使協定を結ばないと始められません。就業規則だけで導入できる1か月単位とは、ここが大きく違います。労使協定は、事業場の過半数労働組合、それがなければ過半数代表者と書面で結びます。
労使協定に定めるのは、次の5つです。
- 対象となる労働者の範囲:全社員か、特定の部署・職種か。「製造部門に所属する者」のように、あとから見て誰が対象か分かる書き方にします。
- 対象期間と起算日:1か月を超え1年以内で決めます。「毎年4月1日を起算日とする1年間」のように書きます。
- 特定期間:対象期間のうち、特に業務が忙しい期間です。ここだけ連続勤務の上限がゆるくなります(後述)。必要がなければ定めなくても構いません。
- 労働日と、労働日ごとの労働時間:対象期間の初日までに、すべての日について特定しておきます。実務では年間カレンダーを作って協定に添付する形が一般的です。
- 協定の有効期間:対象期間より長い期間にします。1年程度が望ましいとされています。
対象期間が長くて年間カレンダーを一度に組めないときは、対象期間を1か月以上のまとまりに区分する方法もあります。この場合、最初の期間だけ労働日と労働時間を特定し、残りの期間は労働日数と総労働時間だけを協定で決めておきます。そして各期間の初日の30日前までに、過半数代表者の同意を得て、書面でその期間の労働日と労働時間を特定します。「30日前まで」を過ぎると特定が有効になりませんので、区分方式を使うならこの期限だけは押さえておきましょう。
そして、労使協定を結んだら就業規則にも定めて周知します(常時10人以上の事業場では、就業規則の変更届も必要です)。労使協定は「この制度を使ってよい」という労使の取り決め、就業規則は「うちの会社の労働時間はこう」という社内のルール。役割が違うので、両方そろえておく必要があります。
守る上限:1日10時間・1週52時間・年280日・連続6日
年間カレンダーを組むときのガードレールが、この4つです。
① 1日10時間・1週52時間
所定労働時間として設定できるのは、1日は10時間まで、1週は52時間までです。「繁忙期は1日12時間で組みたい」はできません。12時間働いてもらうこと自体が禁止なのではなく、あらかじめ所定として組めるのが10時間まで、という意味です。それを超える分は時間外労働として、36協定と割増賃金で対応します。
② 週48時間を超える週の置き方(対象期間が3か月を超える場合)
対象期間が3か月を超えるときは、48時間を超える週の並べ方にも決まりがあります。
- 週48時間を超える所定を組んだ週が、連続して3週を超えないこと
- 対象期間を初日から3か月ごとに区切った各期間で、週48時間を超える週の初日の数が3以内であること
「忙しい月に、長い週をずっと続けて置かない」というルールだと考えると分かりやすいです。カレンダーを組んだら、48時間超の週に印をつけて数えてみてください。
③ 労働日数は年280日まで(対象期間が3か月を超える場合)
対象期間が3か月を超えるときは、1年あたりの労働日数が280日までに制限されます。年間休日が85日以上ある計算になります。対象期間が1年に満たないときは、280日 × 対象期間の暦日数 ÷ 365(1日未満は切り捨て)で比例計算します。対象期間が3か月以下なら、この日数制限はかかりません。
280日という上限は、総枠と合わせて考えると見通しがよくなります。1年=365日の総枠は約2,085時間なので、280日働くなら1日あたりの平均は約7.4時間。逆に1日8時間で組むなら、労働日数は260日あたりが上限の目安になります。「280日」と「2,085時間」は両方満たす必要があるので、日数だけ見て安心しないところがコツです。
対象期間が3か月を超える制度を続けて更新するとき、前回の協定より1日の所定労働時間を長くしたり、週48時間を超える週を設けたりする場合には、労働日数の上限がさらに厳しくなることがあります(280日と「前回の労働日数−1日」の少ないほう)。毎年同じ内容で更新している限りは気にしなくて大丈夫ですが、条件を変えるときだけ思い出してください。
④ 連続勤務は6日まで(特定期間は最長12日)
連続して働かせられるのは、原則6日までです。ただし、労使協定で定めた特定期間については、「1週間に1日の休日が確保できる日数」まで認められます。週の後半に休日を置き、次の週の前半に休日を置くと、最長12日連続まで組めます。
特定期間はあくまで「特に忙しい時期」に限った例外です。対象期間の大半を特定期間にしてしまうと制度の趣旨から外れますので、必要な期間に絞って定めましょう。
具体例:総枠を出して、年間カレンダーと見比べる
言葉だけだと組み立てにくいので、数字で追ってみましょう。次の前提とします。
- 対象期間:2027年4月1日から1年間(365日)
- 1日の所定労働時間:閑散期は7時間30分、繁忙期は9時間
- 年間の労働日数:260日
まず総枠を出します。
- 総枠:40時間 × 365日 ÷ 7 = 2,085.7時間
次に、年間カレンダーの所定労働時間を合計します。仮に繁忙期(9時間の日)を80日、閑散期(7時間30分の日)を180日とすると、
- 9時間 × 80日 = 720時間
- 7.5時間 × 180日 = 1,350時間
- 合計 = 2,070時間
2,070時間は総枠2,085.7時間の中に収まっているので、この組み方はOKです。労働日数260日も280日以内、1日の所定9時間も10時間以内。週の並びで48時間を超える週があれば、その置き方だけ最後に確認します。
ここでうまく収まらないときは、閑散期の所定を短くするか、年間休日を増やすかのどちらかで調整します。繁忙期の所定を削るより、閑散期を短くするほうが現場の納得を得やすいことが多いです。
時間外労働は、3つの段階を順番に数える
変形労働時間制でいちばん間違えやすいのが、時間外労働の数え方です。同じ時間を二度数えないように、次の順番で見ていきます。
- 1日ごと:所定を8時間超で定めた日はその定めた時間を超えた分、それ以外の日は8時間を超えた分
- 1週ごと:所定を40時間超で定めた週はその定めた時間を超えた分、それ以外の週は40時間を超えた分(①で数えた時間は除く)
- 対象期間の全体:総枠を超えた分(①②で数えた時間は除く)
たとえば所定9時間の日に10時間働いたら、①で1時間を時間外として数えます。その週の合計を見るときは、この1時間を除いて計算します。③は対象期間が終わってから精算する形になるので、最後の給与計算で確認する項目としてメモしておくと忘れません。
なお、この制度で対象期間が3か月を超える場合、36協定の時間外労働の限度時間は月42時間・年320時間が原則になります(通常の月45時間・年360時間より短くなります)。36協定を作るときは、こちらの数字を使ってください。
影響:見落としやすいのは「途中で入った人・辞めた人」
1年単位の変形労働時間制で、あとから気づいて慌てやすいのが途中入社・途中退職の精算です。
この制度は「1年でならす」ことを前提にしています。ですから、対象期間の途中で入社した人や、途中で退職した人は、ならす前提が崩れます。繁忙期だけ在籍していた人は、平均すると週40時間を超えて働いたことになってしまうからです。
そこで法律は、実際に働いた期間を平均して週40時間を超えていた分について、割増賃金を支払うことを求めています(労働基準法第32条の4の2)。計算は次のとおりです。
- 実際に在籍した期間の総枠:40時間 × 在籍した暦日数 ÷ 7
- その期間の実労働時間が総枠を超えていれば、超えた分に割増賃金を支払う(すでに時間外として支払った分は除く)
退職手続きのバタバタの中でこの精算が抜けると、あとから未払いの指摘につながりやすいところです。変形制の対象者が退職するときは、最後の給与計算に「変形の精算」を一項目足す——これだけ決めておけば防げます。
もうひとつ、特定した労働日・労働時間は途中で変更できないという点も押さえておきたいところです。「思ったより暇だったので休みにする」「急に忙しくなったので出勤日にする」は原則できません。ここが1年単位のいちばん使いにくいところであり、同時に働く人の予定を守るための大事なルールでもあります。1年先まで見通しが立たない職場では、無理に1年で組まず、対象期間を半年や3か月にするほうが現実的なこともあります。
対象にするとき配慮したい人
- 18歳未満の年少者:原則としてこの制度の対象にできません(満15歳以上18歳未満は、1日8時間・週48時間の範囲内で認められる例外があります)。
- 妊産婦:本人から請求があったときは、変形制を適用せず、1日8時間・週40時間の原則で働いてもらいます。
- 育児や介護を行う人、職業訓練を受ける人:必要な時間を確保できるよう配慮する義務があります。対象から外す、所定の短い日に寄せるなどの調整を検討します。
明日やること(まずはここだけ)
一度に全部そろえなくて大丈夫です。今日できる小さな一歩から始めましょう。
- 去年1年分の月別の総労働時間を、紙に棒グラフで書き出してみる:波の大きさが見えれば、この制度が合う職場かどうかが分かります。ならすほどの凸凹がなければ、無理に入れなくて構いません。
- 総枠を1回だけ計算してみる:40時間 × 365 ÷ 7 = 2,085.7時間。いまの年間所定労働時間と見比べて、どのくらい余裕があるかを確かめます。
- 導入するなら、起算日を決めてカレンダーに逆算の予定を入れる:起算日の前日までに労使協定・就業規則・届出をそろえる必要があります。年度はじめ(4月1日)起算なら、年明けから動き出すと余裕があります。
この3つで、「うちに合うかどうか」の判断までは進めます。
チェックリスト(現場用:最低ライン→優先→代替→免除)
- 最低ライン(ここだけは必ず)
- 労使協定を、過半数労働組合または過半数代表者と書面で結んでいる
- 過半数代表者を、管理監督者以外から民主的な方法で選んでいる
- 対象労働者の範囲・対象期間と起算日・特定期間・労働日と労働時間・有効期間の5項目を協定に書いている
- 対象期間が始まる前に、労働日と労働日ごとの労働時間を特定している
- 所定労働時間の合計が、総枠(40時間 × 暦日数 ÷ 7)に収まっている
- 就業規則にも変形労働時間制の定めを置き、社内に周知している
- 様式第4号で、所轄の労働基準監督署に届け出ている
- 36協定を締結・届出している(時間外労働が発生する場合)
- 優先して確認(ミスの出やすいところ)
- 1日10時間・1週52時間の上限を超えた所定を組んでいない
- 対象期間が3か月を超える場合、労働日数が年280日以内に収まっている
- 週48時間を超える週が、連続3週を超えていない/3か月ごとに3週以内である
- 連続勤務が6日以内(特定期間でも12日以内)に収まっている
- 時間外を①日 → ②週 → ③対象期間全体の順で数え、同じ時間を二度数えていない
- 36協定の限度時間を月42時間・年320時間で作っている(対象期間が3か月超の場合)
- 途中入社・途中退職者の精算(週40時間換算の超過分)を最後の給与に入れている
- 有効期間の満了日をカレンダーに入れ、更新と再届出の予定を立てている
- 8時間を超える日の休憩を1時間以上確保している
- できないときの代替(暫定運用)
- 1年先の予定が読めない → 対象期間を半年や3か月にする(3か月以下なら280日制限もかかりません)
- 年間カレンダーを一度に組めない → 対象期間を1か月以上に区分し、各期間の初日の30日前までに特定する方式にする
- 全社での導入が難しい → 波の大きい部署・職種に対象を絞って始める(対象者の範囲は限定して構いません)
- 制度を整える時間が足りない → 無理に導入せず、原則どおり1日8時間・週40時間で運用し、超えた分を時間外として支払う(要件を欠いたまま運用するより確実です)
- 免除・簡略化の目安
- 年間を通して勤務時間がほぼ一定の職場は、この制度を導入しなくてよい(原則どおりで十分です)
- 対象期間を3か月以下にする場合は、年280日の日数制限と週48時間超の並べ方の制限はかかりません
- 特定期間を置く必要がない職場は、協定に定めなくてよい(連続6日の原則だけで運用します)
- 総枠に大きな余裕がある年は、③の総枠超過の検算を簡略にしてよい(①②の確認は続けます)
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同じ変形制でも月内でならすタイプは1か月単位の変形労働時間制に、始業・終業を本人に委ねるやり方はフレックスタイム制の導入と清算期間にまとめています。時間外の枠組みは36協定の書き方と届出と時間外労働の上限規制を、数える前提を整えるには労働時間の把握義務と労働時間の端数処理をどうぞ。休日の置き方は法定休日と所定休日の違い、制度を定める側は就業規則の変更届出と周知、確認が入ったときの備えは労働基準監督署の調査への対応にまとめました(記事一覧)。
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1年単位の変形労働時間制は、決めることが多く、条文を読むと上限の数字ばかりが目に入ります。「うちには難しそうだ」と感じたとしても、それは自然なことです。
でも、思い出してみてください。この制度を調べはじめたきっかけは、現場の忙しさの波に気づいたからだったはずです。繁忙期に無理をしてくれている人がいて、その働き方をなんとかしたいと思った。その視点は、制度の知識よりずっと大事なものです。
年間カレンダーは、一度作れば翌年からは修正するだけになります。最初の1枚がいちばん大変で、そこを越えれば毎年の作業になります。まずは去年の月別の労働時間を書き出すところから。波が見えたら、その時点でもう半分は進んでいます。
本記事は一般的な実務情報です。変形労働時間制の取扱いは、個別の事情や法改正、就業規則・労使協定の定めによって変わります。協定の様式や記入方法は厚生労働省・都道府県労働局の最新の案内で確認し、最終的な判断は社会保険労務士・所轄の労働基準監督署など最新の公式情報でご確認ください。