事務所の机でカレンダーと勤怠の集計表を広げ、フレックスタイム制の清算期間の総労働時間を確認している中小企業のひとり労務担当者

フレックスタイム制の導入手順と清算期間の管理|ひとり労務ガイド

「子どもの送りがあるので、出社時間を少し遅くできませんか」。 そんな相談が一件あって、社長から「じゃあフレックスにするか」と言われた——ひとり労務だと、こういう流れで急に検討が始まりますよね。制度の名前は知っているけれど、就業規則をどう直せばいいのか、労使協定は要るのか、そもそも残業代はどう数えるのか。調べ始めると、清算期間だの総枠だの、聞き慣れない言葉が次々出てきて手が止まります。

先にお伝えすると、フレックスタイム制の導入は「二段構え」で考えると迷いません。就業規則で「始業・終業の時刻は本人に委ねる」と書き、労使協定で中身(清算期間や総労働時間など)を決める。この2つがそろえば、制度としては動き始めます。あとは、清算期間ごとに「働くべき総枠」を計算して、実際の労働時間と突き合わせるだけ。順番に見ていきましょう。

結論:フレックスタイム制は、①就業規則等に「始業・終業の時刻を労働者の決定に委ねる」旨を定める、②労使協定で「対象となる労働者の範囲/清算期間/清算期間における総労働時間/標準となる1日の労働時間」(コアタイム・フレキシブルタイムを設けるならその時間帯も)を定める、の2つで導入できます。清算期間は最長3か月まで。清算期間が1か月以内なら労使協定の届出は不要、1か月を超える場合は労働基準監督署への届出が必要です。時間外労働は「その日8時間を超えたか」ではなく、清算期間の総枠を超えたかで数えます。

導入の流れは、大きく4ステップです。

  1. 対象者と働き方(コアタイムを置くか、清算期間を何か月にするか)を決める
  2. 就業規則に「始業・終業の時刻は労働者の決定に委ねる」旨を定める
  3. 労使協定で4つの必須事項(+任意事項)を定める
  4. 清算期間が1か月を超える場合は、労使協定を労働基準監督署へ届け出る

何が起きているか:フレックスは「時間の管理をやめる制度」ではない

フレックスタイム制でいちばん誤解されやすいのが、ここです。

フレックスは、始業・終業の時刻を本人に委ねる制度であって、労働時間を管理しなくてよくなる制度ではありません。むしろ逆で、「清算期間を通じて何時間働いたか」を会社が把握し続ける必要があります。日ごとに8時間を超えたかを見る代わりに、期間の合計で見る——管理の物差しが変わるだけ、と考えるのが正確です。

もうひとつ混ざりやすいのが、裁量労働制との違いです。裁量労働制は「何時間働いても、協定で決めたみなし時間を働いたことにする」制度。フレックスは実労働時間をそのまま数えます。名前が似ているので社内で混同されがちですが、フレックスは実時間で清算する制度、と押さえておくと説明もぶれません。

ステップ1:就業規則に「始業・終業は本人に委ねる」と書く

まず必要なのが、就業規則(常時10人未満の会社ならこれに準ずるもの)への定めです。書く内容はシンプルで、対象となる労働者について、始業・終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨を明記します。

条文のイメージはこんな形です。

第○条(フレックスタイム制)
会社は、○○部門に所属する従業員について、フレックスタイム制を適用する。
2 前項の従業員の始業および終業の時刻は、従業員の決定に委ねる。
3 前項に定めるもののほか、清算期間、清算期間における総労働時間その他必要な事項は、労使協定の定めるところによる。

細かい数字(清算期間や総労働時間)まで就業規則に書き込んでしまうと、変更のたびに就業規則の変更届が必要になります。中身は労使協定に委ねる書き方にしておくと、あとの見直しが軽くなります。

なお、就業規則を変更したら、所轄の労働基準監督署への届出と、従業員への周知が必要です。ここは通常の就業規則変更と同じ手順なので、「就業規則を変更したときの届出と周知の手順」もあわせて確認してみてください。

ステップ2:労使協定で決める4つの必須事項

フレックスタイム制の労使協定で必ず定める4つの事項(対象者・清算期間・総労働時間・標準1日)が並び、その下に任意で定めるコアタイムとフレキシブルタイムが続くことを示した図
必ず決める4つと、置くかどうかを選べる2つ。この6項目で協定の骨格ができます

次に、過半数労働組合(なければ過半数代表者)との労使協定です。ここで必ず定める4つは、次のとおりです。

決めること中身の目安迷いやすいポイント
① 対象となる労働者の範囲全社/特定の部署/特定の職種など「○○部所属の者」のように、誰が対象か外から見て分かる書き方に
② 清算期間1か月・2か月・3か月など(上限3か月起算日もセットで書く(例:毎月1日/毎年4月1日を起算日とする3か月ごと)
③ 清算期間における総労働時間その期間に働くべき時間の合計法定労働時間の総枠(後述)を超えない範囲で決める
④ 標準となる1日の労働時間有給を取った日に「何時間働いた」と数えるための時間③を期間中の所定労働日数で割った時間を置くのが一般的

④の「標準となる1日の労働時間」は、地味ですが実務では毎月使います。フレックスでは「その日何時間働くか」が決まっていないので、年次有給休暇を1日取ったときに何時間分としてカウントするかが決まらないのです。そこを埋めるのが、この標準時間です。

そして、置くかどうかを選べるのが「コアタイム」と「フレキシブルタイム」です。

どちらも法律上の必須事項ではありません。コアタイムを置かない「フルフレックス」も可能です。ただし、コアタイムが長すぎたり、フレキシブルタイムが極端に短かったりすると、実質的に本人が始業・終業を決められず、フレックスとして認められないおそれがあります。「一応フレックスだけど、実際は9時に来ないといけない」という運用になっていないか、設計の時点で一度見ておくと安心です。

コアタイム・フレキシブルタイムを設ける場合は、その時間帯も労使協定に明記します。

ステップ3:清算期間の「総枠」を計算する

ここがフレックス運用の心臓部です。清算期間ごとに、法定労働時間の総枠を出します。計算式はこれだけです。

総枠(時間)= 40時間 × 清算期間の暦日数 ÷ 7

暦日数で計算するので、月によって枠が変わります。目安を出しておきます。

清算期間の暦日数法定労働時間の総枠
28日160.0時間
29日165.7時間
30日171.4時間
31日177.1時間

たとえば31日ある月なら、40 × 31 ÷ 7 = 177.14…で、約177.1時間。この枠を超えて働いた分が、時間外労働になります。

労使協定で決める「③清算期間における総労働時間」は、この総枠の範囲内で設定します(例:31日の月で総枠177.1時間のところ、所定労働日数21日 × 8時間 = 168時間を総労働時間とする、など)。

週の法定労働時間が44時間の特例事業場(商業・映画演劇業・保健衛生業・接客娯楽業で、常時使用する労働者が10人未満)では、清算期間が1か月以内の場合に限り「44時間 × 暦日数 ÷ 7」で計算できます。自社が該当するか迷ったら、所轄の労働基準監督署に確認しておくと安心です。

ステップ4:清算期間が1か月を超えるなら、届出と追加の上限がある

清算期間を2か月・3か月にすると、対応が一段増えます。ここは見落としやすいので、分けて整理します。

(1)労使協定の届出が必要になる

清算期間が1か月以内なら、労使協定は社内で保存しておけば足り、届出は不要です。一方、清算期間が1か月を超える場合は、労使協定を所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります(届出は様式が定められています。最新の様式は厚生労働省・労働基準監督署の案内で確認してください)。

(2)「月ごとに週平均50時間」という上限が加わる

清算期間が1か月を超える場合、次の両方を満たす必要があります。

  1. 清算期間全体を通じて、週平均40時間以内(=上の総枠の考え方)
  2. 清算期間を1か月ごとに区分した各期間において、週平均50時間以内

②を超えた分は、その月の時間外労働として、その月のうちに割増賃金を支払います。「3か月まとめて最後に清算」ではない、というのがポイントです。特定の月に仕事が集中して、そこだけ極端に長時間になるのを防ぐための仕組みですね。

3か月の清算期間を検討している場合は、この月ごとチェックの手間も込みで判断するのがおすすめです。ひとり労務で回すなら、まずは1か月の清算期間から始めて、運用が落ち着いてから期間を延ばす、という進め方が現実的だと思います。

過不足時間の扱い:足りない分は繰り越せる、多い分は繰り越せない

清算期間が終わると、「総労働時間」と「実際に働いた時間」を突き合わせます。ここでの扱いが、実は左右で違います。

状況扱い
実労働時間が総労働時間より多い(超過)その清算期間の賃金として支払う。翌期間への繰越はできない
実労働時間が総労働時間より少ない(不足)①不足分を控除して支払う、②翌期間に繰り越して働いてもらう、のいずれか

超過分を「来月の不足に充てるから」と翌月に持ち越すことはできません。働いた月の賃金は、その月に全額支払う必要がある(賃金支払の5原則の「全額払い」)ためです。ここは間違えやすいところなので、清算のたびに確認しておきたい点です。

一方、不足分は翌清算期間に繰り越すことができます。ただし繰り越した結果、翌期間の労働時間が法定の総枠を超えてしまってはいけません。繰り越すのか、その月で控除するのかは、どちらの扱いにするかを労使協定に書いておくと、毎回悩まずに済みます。

賃金の控除については「賃金支払の5原則と給与から控除できるもの」も、あわせて目を通しておくと判断が早くなります。

割増賃金:時間外・深夜・休日は、それぞれ数え方が違う

フレックスでも、割増賃金の考え方は消えません。ただし、時間外の数え方だけが変わります。

「自由に決めていい制度だから深夜も本人の責任」ということにはならない、という点は押さえておきたいところです。本人が自分の判断で深夜まで働いた場合でも、深夜割増の支払いは必要です。フレキシブルタイムの終わりを20時などに設定して、深夜帯にそもそも入らない設計にしておくのが、運用としてはシンプルです。

割増率そのものの計算は「残業代の割増率(時間外・休日・深夜)の計算方法」で一つずつ整理しています。

なお、36協定については、フレックスの場合「1日」単位の時間外労働という考え方をしないため、協定で延長できる時間は1か月・1年の単位で定めることになります。36協定そのものの書き方は「36協定の書き方と労働基準監督署への届出」を参照してください。

影響:設計をあいまいにすると、あとで清算がもつれる

どれも、最初に4つの必須事項をきちんと決めておけば、まず起きないことです。走り出す前の1時間が、あとの何か月分かの手戻りを減らしてくれます。

明日やること(まずはここだけ)

  1. 対象にしたい部署・職種を1行で書き出す(全社なのか、一部なのか)
  2. 清算期間を1か月にするか、それ以上にするかを決める(まずは1か月がおすすめ
  3. 直近3か月分の「総枠」を計算しておく(40時間 × 暦日数 ÷ 7)
  4. 標準となる1日の労働時間を、総労働時間 ÷ 所定労働日数で仮置きしてみる
  5. 勤怠システムがフレックス(清算期間単位の集計)に対応しているか確認する

3番まで終われば、労使協定の下書きはほぼ埋まります。全部を今日やらなくて大丈夫です。

チェックリスト(コピーして使えます)

導入前と、毎月の清算時で分けて並べました。上から順に見れば、抜けを拾えます。

【導入前:制度設計】

【導入前:手続き】

【毎回の清算時】

よければ、こちらも

フレックスは、労働時間まわりの制度の一つです。前提となる「そもそも何時間まで働けるのか」は「時間外労働の上限規制(年720時間など)の基本」に、時間の記録そのものは「勤怠の客観的な記録と労働時間の把握義務」に、似て非なる制度は「変形労働時間制・固定残業代の落とし穴」に、それぞれ別の記事で整理しています。あわせて読むと、「働ける枠を決める → 実際の時間を記録する → 期間で清算する」という流れでつながって見えてきます(記事一覧)。 人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、制度づくりの参考にしてください。

フレックスタイム制の労使協定と清算の手順を整えて、書類を前に穏やかにほほえむ中小企業のひとり労務担当者
決めることが決まれば、あとは毎月同じ手順。次の清算は、きっと少し軽くなります

フレックスタイム制は、一度で完璧な設計をしなくて大丈夫です。 「就業規則で委ねる、労使協定で中身を決める、清算期間ごとに総枠と突き合わせる」——この3つの流れさえ手元にあれば、細かい数字はそのつど計算すれば足ります。最初は1か月の清算期間で小さく始めて、運用が回るようになってから期間や対象を広げていく。そのくらいの進め方で十分です。

「働く時間を、少し自分で決められるようにしたい」。その一言から制度を調べ始めた時点で、あなたはもう会社の働き方を一つ前に進めています。できるところから、ゆっくり整えていきましょう。


本記事は一般的な実務情報です。フレックスタイム制の要件(清算期間の上限・労使協定の必須事項・届出の要否・週平均50時間の取扱いなど)は、個別の事情や法改正によって変わります。労使協定の様式や特例事業場の取扱いを含め、最新の要件は厚生労働省・所轄の労働基準監督署の公式情報でご確認のうえ、最終的な判断は社会保険労務士・所轄の労働基準監督署など最新の公式情報でご確認ください。