事務所の机で給与明細と就業規則を並べ、どの手当を残業代の計算に入れるか手を止めて考えている中小企業のひとり労務担当者

割増賃金の基礎から除外できる手当|7つの限定列挙をやさしく整理

「この住宅手当、残業代の計算に入れるんだっけ」。

給与計算の途中で、手当の一覧を前に手が止まること、ありますよね。基本給だけで割ればいいわけではないのは分かっている。でも、どこまでを分母ならぬ「基礎」に入れるのかは、就業規則を開いてもはっきり書いていない。しかも一度決め方を間違えると、毎月・全員分・何年分と静かに積み上がっていく——だから慎重になるのは、とても自然なことです。

先にお伝えしておくと、ここは覚えることがそれほど多くありません。除外できる手当は法令で7つだけと決まっていて、それ以外はすべて基礎に入れる。判断に迷ったら「入れる」で合っている、という作りになっています。

この記事では、その7つの中身と、いちばんつまずきやすい「名前ではなく決め方で判断する」というルール、そして自社の一覧表の作り方まで、ひとり労務の目線で順番に整理していきます。

結論:割増賃金(残業代・休日手当・深夜手当)の基礎となる賃金からは、労働基準法第37条第5項と同法施行規則第21条で定められた7つ以外は除外できません。その7つは、①家族手当 ②通勤手当 ③別居手当 ④子女教育手当 ⑤住宅手当 ⑥臨時に支払われた賃金 ⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)です。これは「限定列挙」=この一覧にないものは除外できない、という意味です。さらに①〜⑤は、手当の名前ではなく支給の決め方で判断します。扶養家族の人数や通勤距離・住宅費用に応じて金額が変わるなら除外でき、全員に一律定額で払っているなら名前が「家族手当」でも基礎に算入します。迷ったときは「基礎に入れる」を選べば、少なくとも不足払いにはなりません。

進め方は、次の3ステップです。

  1. 自社の手当を全部書き出す
  2. 7つのリストに当てはまるか、当てはまるなら「決め方」も条件を満たすかを見る
  3. 残ったものを合計して、1時間あたりの単価を出す

何が起きているか:ややこしいのは「名前」で判断してしまうから

この論点でつまずく理由は、実はひとつに絞れます。手当の名前と、法令が見ている中身がズレているからです。

給与の手当を「割増賃金の基礎から除外できるもの」と「基礎に算入するもの」の2つの箱に仕分けている概念図
仕分けの基準は手当の名前ではなく「支給の決め方」。迷ったら右の箱に入れれば不足払いにはなりません

たとえば「住宅手当」。法令が除外を認めているのは、住宅に要する費用に応じて金額が変わる手当です。家賃の一定割合を支給する、住宅ローンの返済額の段階に応じて金額が変わる——こういう形なら除外できます。

一方で、「持ち家でも賃貸でも、全員に月15,000円」という支給の仕方だと、それは住宅費用に応じていません。名前は住宅手当でも、実質は基本給の一部と同じ扱いになり、割増賃金の基礎に算入します

家族手当も通勤手当も、考え方は同じです。

手当除外できる形基礎に算入する形
家族手当扶養家族の人数・区分に応じて金額が変わる扶養の有無にかかわらず全員に一律定額/「配偶者がいる人は一律◯円」のような扶養人数と無関係な定額部分
通勤手当通勤距離や実際の交通費に応じて支給する通勤方法・距離にかかわらず全員に一律定額
住宅手当家賃・ローン返済額など住宅費用に応じて金額が変わる全員に一律定額/持ち家か賃貸かの2区分だけで定額

ここで「うちは一律で払っているから、除外できないのか」と落ち込む必要はありません。一律定額そのものが悪いわけではないのです。悪いのではなく、割増賃金の計算では基礎に入る、というだけの話です。支給の仕方は会社の設計として自由に決められます。

もうひとつ押さえておきたいのが、⑥臨時に支払われた賃金と⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金です。

そして、リストにないもの——役職手当、職務手当、資格手当、精皆勤手当、営業手当など——は、どんな名前であってもすべて基礎に算入します。ここは例外がありません。

具体例:実際に時間単価を出してみる

言葉だけだと分かりにくいので、数字で追ってみましょう。次の会社を例にします。

項目金額支給の決め方
基本給240,000円
役職手当20,000円役職に応じて支給
家族手当10,000円扶養家族1人につき5,000円(この人は2人)
通勤手当12,000円1か月の定期代の実費
住宅手当15,000円全員に一律定額

ステップ1:基礎に入れるものを選ぶ

割増賃金の基礎となる賃金 = 240,000円 + 20,000円 + 15,000円 = 275,000円

ステップ2:1時間あたりの単価を出す

275,000円 ÷ 160時間 = 1,718.75円 → 1,719円

1円未満の端数は、50銭未満を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げる処理が認められています(行政通達)。ここでは75銭なので1,719円としました。切り上げずに小数のまま計算しても構いませんが、どちらかに決めて全社員に統一して適用するのが大切です。

ステップ3:割増率をかける

種類割増率1時間あたり
時間外労働1.251,719円 × 1.25 = 2,149円
法定休日労働1.351,719円 × 1.35 = 2,321円
深夜(22時〜5時)の割増0.25(加算)1,719円 × 0.25 = 430円
月60時間超の時間外労働1.501,719円 × 1.50 = 2,579円

(いずれも1円未満は50銭以上を切り上げ。割増率そのものは残業代の割増率の記事で詳しく整理しています。)

もし住宅手当を誤って除外していたら

同じ人で、住宅手当15,000円を「名前が住宅手当だから」と除外してしまった場合を計算してみます。

260,000円 ÷ 160時間 = 1,625円 → 時間外1時間あたり 1,625円 × 1.25 = 2,031.25円 → 2,031円(25銭は切り捨て)

正しい2,149円との差は、1時間あたり118円。月20時間の残業で2,360円、年間で約28,000円です。1人でこの金額なので、同じ手当を全員に払っている会社なら、人数分が静かに積み上がっていくことになります。

大きな金額に見えるかもしれませんが、逆に言えば手当の一覧表を1枚作れば、これは丸ごと防げるということでもあります。

影響:気づきにくいけれど、あとから戻す作業が大きい

割増賃金の基礎の誤りは、毎月の明細を見ても目立ちません。金額が「少しだけ」違うからです。ただ、性質としては次のような広がり方をします。

大事なのは、慌てて全期間をさかのぼることではありません。まず今の計算式を正しくして、これから先を止める。過去分の扱いは、金額の規模を把握してから社会保険労務士や顧問に相談すれば十分間に合います。

明日やること(まずはここだけ)

一度に全部整えなくて大丈夫です。順番に進めましょう。

  1. 賃金台帳か給与明細を1枚印刷して、手当の名前を全部書き出す(項目名だけで構いません。10分ほどで終わります)。
  2. 7つのリストに当てはまるものだけ、横に印をつける。当てはまらないものは、その時点で「基礎に算入」で確定です。
  3. 印をつけた手当について、賃金規程で支給の決め方を確認する。一律定額になっていたら「算入」に修正します。ここが今日いちばんの山場です。
  4. 給与ソフトの設定画面を開いて、割増賃金の基礎に含める項目のチェックが2・3の結論と一致しているか見る(項目名は「割増基礎」「残業単価対象」などソフトによって違います)。
  5. 月平均所定労働時間を確認する。年間所定労働時間 ÷ 12 で出し、今年度のカレンダーで所定日数が変わっていないか見ておきます。
  6. ズレが見つかったら、まず今月分から正しい計算に直す。過去分の扱いは金額を概算してから相談すればよく、今日決めなくて大丈夫です。

チェックリスト(現場用:最低ライン→優先→代替→免除)

手当の仕分けを書き出した一覧表を机に広げ、肩の力が抜けた穏やかな表情でほほえんでいる中小企業のひとり労務担当者
一覧表が1枚あれば、来月からは迷いません。ここまで整理できたなら十分です

割増賃金の基礎の話は、条文を読むと難しく見えますが、やっていることは「手当を2つの箱に仕分ける」だけです。しかも迷ったら算入側に入れておけば、少なくとも足りない状態にはなりません。判断に自信が持てないときほど、この逃げ道があることを思い出してください。

毎月の給与計算に追われながら、それでも「この手当、合っているだろうか」と立ち止まったこと自体が、すでに丁寧な仕事です。今日、手当の一覧を1枚書き出せたなら、来月からの計算はぐっと軽くなります。ひとつずつで大丈夫です。


本記事は一般的な実務情報です。賃金・労務の取扱いは、個別の事情や法改正、就業規則の定めによって変わります。最終的な判断は、社会保険労務士・所轄の労働基準監督署など最新の公式情報でご確認ください。

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