
従業員のマイナンバー|取得・保管・廃棄と安全管理措置の進め方
入社した人からマイナンバーを預かったあと、その紙をどこに置くか、少し迷ったことはありませんか。
とりあえずクリアファイルに入れて、机の引き出しへ。そのまま何年も経って、退職した人の分がまだ残っている——ひとり労務の現場では、よく聞く話です。悪気があるわけでもなく、単に「いつ捨てていいのか誰も教えてくれなかった」だけなんですよね。
まずお伝えしたいのは、マイナンバーの管理は、大がかりなシステムがなくても回せるということ。必要なのは「入口(取得)・置き場(保管)・出口(廃棄)」の3つを決めることだけです。
結論:マイナンバーは「①利用目的を伝えて本人確認をして受け取る → ②他の書類と分けて鍵のかかる場所に置く → ③保存年数が過ぎたらできるだけ速やかに捨てる」の3段階で管理する。使えるのは社会保障・税・災害対策の法定手続きだけで、社員番号などへの流用はできない。従業員100人以下の会社には、ガイドライン上「中小規模事業者」としてやり方を軽くできる特例がある。まずは鍵付きの引き出し1つと、廃棄の日を書いた台紙1枚から始めれば十分です。
進め方はシンプルです。
- 何に使うかを本人に伝えてから、番号確認と身元確認をして受け取る
- マイナンバーが載った書類だけを分けて、鍵のかかる場所へ置く
- 書類ごとの保存年数をメモしておき、過ぎたものから捨てて、捨てた記録を残す
何が起きているか:普通の個人情報より、少しだけ扱いが厳しい
マイナンバー(個人番号)を含む情報は「特定個人情報」と呼ばれ、氏名や住所といった一般的な個人情報より、扱いのルールが少しだけ厳しく決められています。むずかしく身構える必要はなくて、押さえどころは次の3つです。
- 使い道が決まっている:社会保障・税・災害対策の、法律で決められた手続きにしか使えません。「社員番号にすると便利そう」「名簿の照合に使いたい」は、たとえ社内だけの利用でもできません。
- 集めっぱなしにできない:必要がなくなり、法令で決まった保存年数も過ぎたら、できるだけ速やかに捨てる(削除する)ことになっています。「念のためずっと持っておく」ができない情報です。
- 置き方に配慮がいる:紛失や漏えいを防ぐための「安全管理措置」を講じることが求められます。ただし後述のとおり、小さな会社向けには現実的なやり方が用意されています。
逆にいえば、ここさえ外さなければ大丈夫です。ひとり労務で完璧な情報システムを組む必要はありません。
① 取得:伝えてから、確かめて、受け取る

入口でやることは3つです。順番に見ていきましょう。
利用目的を伝える
先に「何に使うか」を本人へ知らせます。口頭でも構いませんが、入社時の案内文や社内掲示に書いておくほうが、あとで迷いません。書き方の例です。
提供いただいた個人番号は、次の事務に利用します。
・源泉徴収票の作成など、給与所得・退職所得の源泉徴収事務
・健康保険、厚生年金保険、雇用保険の届出事務
・労働者災害補償保険法に基づく請求事務
将来ありうる手続きをまとめて挙げておけば、そのつど取り直さなくて済みます。逆に、ここに書いていない目的には使えません。
番号確認と身元確認をする
「その番号が正しいか(番号確認)」と「その人が本人か(身元確認)」の2つを確かめます。
| 確認すること | 使える書類の例 |
|---|---|
| 番号確認 | マイナンバーカード(個人番号カード)、個人番号が記載された住民票の写し・住民票記載事項証明書 |
| 身元確認 | マイナンバーカード、運転免許証、パスポート、健康保険の資格確認書 など |
マイナンバーカードが1枚あれば、番号確認と身元確認の両方をまかなえます。カードがない方には、個人番号入りの住民票と運転免許証などの組み合わせでお願いすることになります。
なお、雇用関係にあることなどから人違いでないことが明らかだと事業者が判断できるときは、身元確認書類を省略できる扱いがあります(詳しい条件は国税庁の公表資料で確認してください)。長く働いている方に毎回免許証を出してもらうのが気まずい、というときの逃げ道になります。
扶養家族の分は、誰が確認するのか
ここは現場でいちばん混乱しやすいところなので、分けて覚えておくと安心です。
- 扶養控除等申告書に書く扶養親族の番号…従業員本人が扶養親族の本人確認を行います。会社が家族の免許証をチェックする必要はありません。
- 国民年金第3号被保険者関係届の配偶者の番号…この届出では、会社が配偶者本人の本人確認を行う必要があります。従業員経由ではなく、配偶者から直接提供を受ける形になるためです。
「税の扶養は本人におまかせ、3号は会社が確認」と覚えておくと、書類を前に迷わずに済みます。
出してもらえないときは、記録を残す
事情があって番号を教えてもらえないこともあります。そのときは、番号がないまま書類を提出することになりますが、それで受理されないわけではありません。国税庁も、個人番号の記載がない書類を受理しない取扱いはしないとしています。
大切なのは、次の2つです。
- 番号の記載が法令で定められた義務であることを、あらためて丁寧に伝える
- それでも提供が受けられなかった経過を、日付つきでメモに残しておく
「聞きました。この日にこう説明しました」という記録があれば、会社が義務を果たしていないわけではないことを示せます。相手を責める必要はありません。淡々と記録を残しておけば大丈夫です。
② 保管:鍵付きの引き出し1つから始める
安全管理措置というと構えてしまいますが、やることは「余計な人が見られない・持ち出せない状態にする」に尽きます。ガイドラインでは、組織的・人的・物理的・技術的の4つの側面から整えることが示されています。
| 側面 | ひとり労務での現実的な形 |
|---|---|
| 組織的 | 担当者を決める(例:労務担当1名)。担当者以外は触らないと社内で共有する。事故が起きたときの連絡先を決めておく |
| 人的 | 担当者が扱い方を理解しておく。他の従業員にも「番号は担当に直接渡す」と伝えておく |
| 物理的 | 番号が載った書類は他と分けて、鍵のかかるキャビネット・引き出しへ。机に出したまま席を立たない |
| 技術的 | データで持つならアクセスできる人を限定し、パスワードをかける。メールの添付やチャットで平文のまま送らない |
従業員100人以下なら、軽いやり方が認められている
ガイドラインには、従業員数が100人以下の事業者を「中小規模事業者」として、対応方法を軽くしてよいという特例が置かれています(個人番号関係事務の委託を受けている事業者や、金融分野の事業者など、一部は対象外です)。
たとえば、取扱規程を文書としてきちんと作ることまでは求められず、取扱いの方法を明確にしておく、担当者がその方法を理解しておくといった形での対応が認められています。「規程集を整えないと始められない」ということはありません。
まずは、こんな一枚メモから始めれば十分です。
・番号が載った書類は、緑のファイルにまとめて袖机の下段(鍵付き)に入れる
・鍵は労務担当(○○)が持ち、他の人は開けない
・書類を出したら、その日のうちに戻す
・退職者の分は、保存年数を書いた付せんを貼っておく
保管していい期間は「使う予定がある間」
マイナンバーは、必要がある場合に限り保管できます。従業員の場合、雇用関係が続いていて、翌年以降も源泉徴収や社会保険の手続きに使う見込みがあるので、在職中は継続して保管して差し支えありません。
問題は、辞めたあとです。ここが次の「廃棄」の話になります。
③ 廃棄:保存年数が過ぎたら、できるだけ速やかに
退職などで手続きに使わなくなり、かつ法令で決まった保存年数も過ぎたら、できるだけ速やかに捨てる(削除する)のがルールです。
書類ごとの保存年数の目安を並べます。数え始めの時点が書類によって違うので、そこだけ気をつけてください。
| 書類 | 保存年数の目安 | 数え始め |
|---|---|---|
| 扶養控除等申告書、保険料控除申告書 など | 7年 | 提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から |
| 雇用保険の被保険者に関する書類 | 4年 | 完結の日から |
| 健康保険・厚生年金保険に関する書類 | 2年 | 完結の日から |
| 労働者名簿・賃金台帳などの労働関係書類 | 5年(当分の間3年の経過措置あり) | 記載事項ごとに定められた起算日から |
同じ人の書類でも年数が違うので、実務では「いちばん長いもの(多くは扶養控除等申告書の7年)に合わせて、まとめて捨てる年を決める」と管理が楽になります。ファイルの背に「2033年廃棄」と書いておくだけで、ずいぶん気持ちが軽くなります。
捨て方と、捨てた記録
紙は、復元できない形にします。細断(クロスカットのシュレッダー)、焼却、溶解のいずれかが基本です。溶解処理は専門業者に依頼する方法もありますが、その場合も委託先の管理は会社の責任になります。データは、削除したうえで、必要に応じて復元できない形にします。
そして、削除・廃棄した記録を残しておきます。このとき、記録にマイナンバーそのものを書いてしまわないよう気をつけてください。せっかく捨てたのに、記録の中に番号が残ってしまっては本末転倒です。
記録の書き方の例
2026-08-08|退職者A(2019年3月退職)分の扶養控除等申告書ほか1式をシュレッダーで細断|担当:○○
これだけで、「ちゃんと管理している」と説明できる状態になります。
委託するときと、もしものとき
給与計算や年末調整を、税理士・社労士やクラウドサービスにお願いしている会社も多いと思います。その場合、委託先に対して必要かつ適切な監督を行うことが求められます。難しいことではなく、次のような確認で足ります。
- 契約書に、特定個人情報の取扱いや安全管理措置についての定めがあるか
- 再委託がある場合、こちらの許諾を得る決まりになっているか
- 委託先がどんな安全管理をしているか、公表資料などで確認できるか
そして、もし紛失や漏えいが起きたときは、抱え込まないことがいちばん大切です。内容によっては個人情報保護委員会への報告と本人への連絡が必要になります。該当するかどうかの判断基準は委員会が公表しているので、慌てずにそれを確認し、必要に応じて社労士や顧問弁護士に相談してください。ひとりで判断しなくて大丈夫です。
影響:一度整えると、毎年の手続きが静かになる
- 入口が決まっていない → 入社のたびに「本人確認って何を見るんだっけ」と調べ直すことになる
- 置き場が決まっていない → どこに何があるか分からず、年末調整や退職手続きのたびに探す時間が生まれる
- 出口が決まっていない → 何年も前に辞めた人の番号を持ち続け、万一のときの影響範囲が広がる
裏を返すと、この3つを一度決めてしまえば、あとは同じ動きを繰り返すだけになります。ひとり労務にとって、「考えなくていいことを増やす」のはかなり効く投資です。
明日やること(まずはここだけ)
- 番号が載った書類を1か所に集め、鍵のかかる場所に移す(新しい家具を買う必要はありません。既存の引き出しで十分です)
- その入れ物に「担当は誰か」「いつ捨てるか」を書いた紙を1枚貼る
- 入社時に本人へ渡す案内文に、利用目的の3〜4行を追記する
- すでに退職した人のファイルを1つだけ開いて、保存年数が過ぎていないか確かめる
全部を今日やらなくて大丈夫です。1つ目の「集めて鍵をかける」だけでも、状況はかなり良くなります。
チェックリスト(コピーして使えます)
現場で回るように、最低ラインと条件付きの二段構えにしました。まずは最低ラインから埋めていってください。
【最低ライン(ここだけは先に)】
- 利用目的(源泉徴収事務・社会保険の届出事務など)を本人に伝える案内を用意した
- 取得時に番号確認と身元確認を行っている(マイナンバーカードなら1枚で両方)
- マイナンバーが載った書類を、他の書類と分けて保管している
- その保管場所に鍵がかかる(データの場合はアクセス制限とパスワード)
- 誰が担当かを決め、担当以外は触らないことを社内で共有した
- 書類ごとの保存年数をメモし、廃棄する年をファイルに書いてある
- 保存年数が過ぎた分は、復元できない方法で捨てている
- 捨てた記録を残している(記録にマイナンバー自体は書かない)
【条件付き(該当するときだけ)】
- 給与計算・年末調整を外部に委託している
- 契約書に特定個人情報の取扱い・安全管理措置の定めがある
- 再委託の扱い(許諾が必要かどうか)を確認した
- 扶養家族の番号を扱う
- 扶養控除等申告書の扶養親族分は、本人が確認する前提で案内している
- 国民年金第3号被保険者関係届では、会社が配偶者の本人確認を行っている
- 番号を提供してもらえない方がいる
- 法令で定められた義務であることを説明した
- 説明した日付と経過を記録に残した
- 従業員が100人を超えている、または委託を受けて番号を扱っている
- 中小規模事業者の特例の対象外にあたらないか確認した
- 基本方針・取扱規程等の整備が必要かを確認した
- データで保管している
- アクセスできる人を担当者に限定している
- メールやチャットで番号をそのまま送っていない
よければ、こちらも
マイナンバーを実際に使う場面としては、「入社手続きの必要書類と集める順番」「退職手続きの流れ(離職票・資格喪失・源泉徴収票)」「扶養控除等申告書・保険料控除申告書の集め方」あたりが地続きです。健康保険証の切り替わりで扱いが変わった部分は「マイナ保険証への切替と資格確認書の取扱い」に、1年の提出物の全体像は「ひとり労務の年間スケジュール」にまとめています(記事一覧)。 人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、日々の手続きの確認に役立ててください。

マイナンバーの管理は、立派な規程集や高価なシステムがないと始められない仕事ではありません。
鍵のかかる引き出しを1つ決めて、「誰が担当か」と「いつ捨てるか」を紙に書く。それだけで、昨日までより確実に前へ進んでいます。もし今、机の奥に何年も前の書類が眠っていたとしても、それはあなたの落ち度ではなく、単に出口を決める機会がなかっただけです。今日ここで決めてしまえば、来年からはもう迷いません。
ひとつずつで大丈夫。今日は、書類を集めて鍵をかけるところまでで十分です。
本記事は一般的な実務情報です。特定個人情報の取扱いや安全管理措置の具体的な内容、書類の保存年数は、個別の事情や法改正によって変わります。最終的な判断は、個人情報保護委員会・国税庁・デジタル庁の公表資料や、社会保険労務士など専門家の最新の情報でご確認ください。