従業員名簿と事業場ごとの人数メモを机に広げ、安全衛生で誰を選任すべきかを落ち着いて数えている中小企業のひとり労務担当者

安全衛生管理体制の整え方|10人・50人で変わる選任と規程づくり

「うちの会社、安全衛生の担当って、誰か決まってましたっけ」。 人が少しずつ増えて、拠点がひとつ増えて、あるとき労働保険の書類を見ながらふとそう思う。調べ始めると、衛生管理者、衛生推進者、産業医、衛生委員会と似た名前がずらりと並んでいて、どれが自分の会社に関係あるのか分からなくなる。しかも、給与計算や社会保険の手続きのように毎月やってくる仕事ではないので、後回しにしたまま何年も過ぎている——そんな会社は、実はとても多いです。

安全衛生管理体制は、会社全体ではなく「事業場ごと」の人数で決まります。そして、人数のラインは実質的に10人50人の2つだけ。この2つを覚えてしまえば、あとは「うちの拠点はどこに当てはまるか」を数えるだけの話になります。全部を一度に整えなくて大丈夫です。今いる場所を確かめるところから、一緒に見ていきましょう。

結論:安全衛生の選任義務は事業場(拠点)単位で、常時使用する労働者数(パート・アルバイトを含む)で決まります。10人未満は選任義務なし。10人以上50人未満衛生推進者(または安全衛生推進者)を1人。50人以上になると衛生管理者・産業医・衛生委員会が一気に加わり、労基署への届出も必要になります。選任期限はいずれも事由が発生した日から14日以内。まずは拠点ごとの人数を数えて、自社がどの段になっているかを確かめるところからで十分です。

進めるときは、次の順番だと迷いにくくなります。

  1. 事業場(拠点)ごとに、常時使用する労働者数をパートも含めて数える
  2. その人数が10人以上か/50人以上かで、選ぶべき人を確認する
  3. 選任したら14日以内に手当てし、届出が要るものだけ労基署へ出す

何が起きているか:数えるのは「会社全体」ではなく「拠点ごと」

いちばん最初につまずくのが、ここです。労働安全衛生法の選任義務は、会社単位ではなく事業場単位で判断します。事業場とは、ざっくり言えば「場所的に独立して、そこで継続的に仕事が行われている単位」です。本社と支店、工場、店舗はそれぞれ別の事業場として数えます。

たとえば、社員が全部で70人でも、本社40人・支店20人・営業所10人と分かれているなら、50人以上の事業場はひとつもありません。逆に、社員が55人でも全員が本社勤務なら、その1か所が50人以上の事業場になります。「会社の規模」の感覚と、法律上の判断が食い違いやすいのはこのためです。

数え方にもコツがあります。「常時使用する労働者」には、正社員だけでなく、パート・アルバイト・契約社員も含めます。週2日だけの人でも、その働き方が常態になっているなら頭数に入ります。派遣で受け入れている人も、安全衛生管理体制の人数としては受け入れている側でも数えます。「正社員だけなら48人だから大丈夫」と思っていたら、パートを入れて52人だった、というのはよくある話です。

就業規則と同じ「10人」、でも別の話:就業規則の作成義務も「常時10人以上の労働者を使用する事業場」が基準で、数え方の考え方は共通しています。ただし届出先の書類も手続きもまったく別物なので、片方をやったからもう片方も済んでいる、とはなりません。就業規則のほうは「就業規則の作成義務(常時10人以上)と届出の流れ」に整理しています。

そのうえで、人数ごとに必要になるものを並べると、思ったよりシンプルです。

事業場の人数が増えるにつれて、選任義務なしの小さな職場から衛生推進者、衛生委員会へと安全衛生の体制が段階的に増えていくことを左から右へ示した概念図
事業場ごとの人数で、必要になるものが段階的に増えていく

具体例:10人以上50人未満なら、選ぶのは1人だけ

事業場の人数が10人以上50人未満なら、必要なのは衛生推進者を1人選ぶことです。業種によって呼び名が変わり、林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業や、製造業・電気業・ガス業・水道業・通信業・各種商品卸売業・各種商品小売業・旅館業・ゴルフ場業・自動車整備業・機械修理業などでは、安全衛生推進者という名前になります。それ以外の業種(金融・保険、医療、飲食店、一般的なサービス業など)は衛生推進者です。やることの中身は、名前ほど大きくは変わりません。

ここは、身構えずに済む部分です。

つまり、実務としては「講習を受けた人を1人決めて、名前を貼り出す」。これで形は整います。総務や工場長が兼任しているケースがほとんどです。

貼り出す1枚を、あなどらない:掲示は形式的に見えますが、「何かあったら誰に言えばいいか」が全員に見えている状態をつくる、という意味があります。体調やケガのことは、相談先がはっきりしていないと言い出しにくいものです。名前が1つ貼ってあるだけで、声をかけるハードルは思ったより下がります。

10人未満でも、ゼロではないこと

「うちは5人だから何も要らない」。小さな職場では、選任義務という意味ではそのとおりです。ただ、事業場の規模にかかわらず全社共通で求められることもいくつかあります。ここだけは押さえておくと安心です。

このうち定期健康診断は、費用も手間もかかるので後ろにずれがちなところです。ただ、年1回のことなので「毎年◯月」と決めてしまえば、あとは案内を出すだけの仕事になります。年間の提出物と合わせて眺めたいときは「ひとり労務の年間スケジュール」もどうぞ。

影響:50人を超えると、やることが一段階増える

ひとつの事業場が常時50人以上になると、必要なものが一気に増えます。ここが実質的な分かれ目です。

選任・実施するもの期限・頻度労基署への届出
衛生管理者(50〜200人は1人)事由発生から14日以内選任報告が必要
産業医(1人)事由発生から14日以内選任報告が必要
衛生委員会毎月1回以上開催届出は不要(議事録は3年保存)
ストレスチェック1年以内ごとに1回検査結果等報告書が必要
定期健康診断の結果報告健診の実施ごと結果報告書が必要
安全管理者(一部の業種のみ)事由発生から14日以内選任報告が必要

いくつか、実務で引っかかりやすいところを補足します。

衛生管理者は「専属」であること。 その事業場に所属している人から選びます。他社や本社の人を兼任させることは、原則できません。必要な資格は第一種衛生管理者免許または第二種衛生管理者免許で、有害業務の少ない業種(情報通信業、金融・保険業、卸売・小売業、サービス業など)なら第二種でも足ります。製造業、建設業、運送業、医療業、清掃業などは第一種が必要です。試験は月に何度か実施されているので、「50人が見えてきたな」と思った時点で、社内の誰かに受験してもらう段取りを始めるのが現実的です。選任してからの14日では、資格取得は間に合いません。選任後は、少なくとも毎週1回、作業場を巡視することも役割に含まれます。

産業医は、探すのに時間がかかる。 50人以上の事業場では、産業医の選任が義務になります(1,000人未満の規模なら、月に何度か来てもらう嘱託の形で構いません)。ただ、地域によっては引き受けてくれる医師がすぐに見つからないことがあります。健康診断をお願いしている医療機関、地元の医師会、加入している健康保険組合などに早めに相談しておくと安心です。産業医は、少なくとも毎月1回(一定の条件を満たす場合は2か月に1回)、作業場を巡視します。

衛生委員会は、月1回・議事録3年保存。 構成は次のとおりです。

「半数は過半数代表者の推薦で」というルールを見落として、会社が全員を指名してしまうケースが少なくありません。ここは36協定などで過半数代表者を選ぶときと同じ考え方なので、選出の記録は残しておきましょう。開催は毎月1回以上議事の概要を労働者に周知し、記録は3年間保存します。議題は、健康診断の結果を踏まえた対策、長時間労働の状況、職場の暑さ・寒さや衛生環境の話など、身近なところで十分です。

総括安全衛生管理者は、もう少し先の話:この役職が必要になるのは、林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業で100人以上、製造業や小売業など一定の業種で300人以上、その他の業種で1,000人以上の事業場です。中小企業のひとり労務で当面気にする必要はほとんどありません。頭の片隅に置いておく程度で大丈夫です。

50人未満でも使える「地域産業保健センター」

産業医の選任義務がない50人未満の事業場でも、健康管理について医師に相談したい場面は出てきます。実は、労働者数50人未満の事業場が無料で使える「地域産業保健センター(地さんぽ)」という仕組みが、全国に用意されています。健康診断の結果についての医師の意見聴取、長時間労働者への面接指導、メンタル不調の相談などを、費用の負担なく相談できます。

「うちは小さいから、産業医なんて頼めない」と諦めていた会社ほど、知っておく価値のある入口です。休職・復職の判断に迷ったときにも心強いので、「メンタル不調・休職者対応と復職支援の基本」とあわせて覚えておいてください。

規程には、どこまで書けばいいか

安全衛生管理規程をつくること自体は、労働安全衛生法上の義務ではありません。ただし、就業規則に安全衛生についての定めを置く場合は、そこに記載する必要があります(相対的記載事項)。就業規則の記載事項の考え方は「就業規則に必ず書く絶対的記載事項のチェック」に整理しています。

規程を分けて整えるなら、盛り込む中身は次のあたりで足ります。最初から立派なものを目指さなくて大丈夫です。

  1. 安全衛生管理体制:衛生推進者(または衛生管理者・産業医)を選任すること、その役割
  2. 健康診断:会社が実施すること、従業員に受診義務があること、結果に基づく就業上の措置
  3. 就業の禁止・制限:感染症などで就業を止める場合の取扱い
  4. 従業員の遵守事項:安全衛生に関する指示に従うこと、危険な行為をしないこと
  5. 災害発生時の報告:ケガや事故が起きたときに、誰に、いつまでに報告するか

50人以上になったら、衛生委員会規程(構成・開催頻度・議事録の扱い)も別に用意しておくと運用がぶれません。どの規程から手をつけるか迷ったときは「慶弔・休職など社内規程をそろえる優先順位」も参考になります。

ストレスチェックの現在地:常時50人以上の事業場では、1年以内ごとに1回のストレスチェックが義務で、実施後は労基署へ検査結果等報告書を出します。50人未満の事業場は、いまのところ努力義務です。ここは今後の見直しが議論されている分野なので、拠点の人数が50人に近づいてきたら、厚生労働省の最新の案内で扱いを確認しておくと安心です。

明日やること(まずはここだけ)

全部をいっぺんに整えようとしなくて大丈夫です。今日できる小さな一歩から始めましょう。

  1. 拠点ごとの人数を、パートも含めて数えて1枚にする:本社◯人、支店◯人、と並べるだけで十分です。これがないと、そもそもどの話が自社に関係あるのか判断できません。
  2. 10人以上の拠点に、衛生推進者の名前が貼ってあるか確認する:選任済みでも掲示を忘れていることがよくあります。名前と役割を書いた紙を1枚、見やすい場所に。
  3. 50人に近づいている拠点があれば、衛生管理者の受験を誰かに打診する:ここだけは前倒しでしか間に合いません。50人になってから動くと、必ず遅れます。

この3つで、自社の現在地と、次に来る準備が見えます。あとは、そこに来たときに動けば大丈夫です。

チェックリスト(コピーして使えます)

安全衛生管理体制の確認項目です。事業場(拠点)ごとに見ていきましょう。

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本記事は一般的な実務情報です。安全衛生管理体制の選任義務・資格要件・届出の取扱いは、業種や事業場の実情、法令の改正によって変わることがあります。最新の要件や様式は、厚生労働省・所轄の労働基準監督署の案内でご確認のうえ、判断に迷う場合は社会保険労務士・所轄の労働基準監督署など公式の窓口にご相談ください。